第二回技術書同人誌博覧会で頒布した新刊『lain, anonymous insight note』(以下、『lainノート』)と、その参考文献を紹介したい。
これはヲレの話を聞け〜! 技術の薄い本、著者からのオススメ Advent Calendar 2019 - Adventarの24日目の記事です。
今更感があるけど(^^;
『lainノート』について
昨今、話題になることが多い人工知能。
この『lainノート』は、そういった人工知能(技術)に対して、「自分たちが本当に欲しかったものって、それなの?」という疑問をぶつけ、アニメ『serial experiments lain』(以下、『lain』)を通して、自分たちが本当に欲しかったものは何なのかを知るための哲学的な話題、疑問を提供している。
『人工知能のための哲学塾』の著者、三宅陽一郎先生も主張する通り、人工知能の研究は「科学」「工学」「哲学」の交わるところに存在するので、挙げた参考文献もいろんな分野に渡っている:
- 『lain』関連
- 哲学関連
- てつがくフレンズ 女の子の姿になった哲学者たちの哲学学園
- ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。
- 哲学散歩道 身体から眺めた世界
- 数学、技術関連
- 人工知能関連
- その他
- キーリ 死者たちは荒野に眠る
- 劇場版カードキャプターさくら 封印されたカード
これらの本(やアニメ)も非常に面白いので、ぜひ読んで(見て)もらいたい。
なぜ哲学?
その前に、そもそもなぜ哲学なのかについて。
哲学っていうと、なんかよく分からない概念を屁理屈つけてこねくり回してて、何の役にも立たない印象があるわけだけど(そして、残念ながらそれはかなり正しいんだけど)、エンジニアにとってはまったく役に立たないわけではない。
問題解決って、実は2つのフェーズが必要。
- 問題を見つける
- 問題を解く
そして、技術というのは2.をするためのものなので、これだと問題解決の半分しかできていない。
では、1.をするためのものがなにかというと、それが哲学になる。
哲学とは何かという定義は難しいんだけど、「当たり前と思っていたことに、実は問題が隠れていたことを見つける」という側面が哲学にはある。
(そして、可能ならその問題を解決するような新しい思考の枠組みを提供する)
「問題を見つける」のが哲学、「見つけられた問題を解く」のが科学と考えてもいいかもしれない。
(もちろん、名を残すようなすごい人はその両方を行っている;哲学者は問題を見つけた上でそれに対する自身の回答(思想)を与えているし、科学者は新しい問題を自ら見つけて新しい分野を切り開いてる)
なので、哲学が役に立たないように見えるのは、問題を見つけることには成功するんだけど、悲しいかな、その問題を解決するだけの能力が足りてないことが多いから。
2.の能力が備わってないと、こうなる。
一方、「顧客が本当に欲しかったもの」というギャグが示す通り、1.の能力が足りてないと、問題が正しく捉えられていないから、出来上がったものは残念なものにしかならない。
正しく作られてるけど妥当ではない、というのは、残念ながらよくあること。
もちろん、哲学の内容がそのまま役に立つことは少ないけど、哲学を学ぶことで「なんでこの人はこれを問題と考えているんだろう?」と否応なしで考えさせられるので(それくらい「当たり前すぎること」を哲学者は不思議がる)、1.の能力を高めるのにオススメ。
あと、今まで考えたこともなかったようなことを考えられるので、純粋に楽しいというのもあるw
『lain』関連
さて、ここからは参考文献の紹介。
serial experiments lain
まずは『lain』から。
serial experiments lain Blu-ray BOX
- 出版社/メーカー: NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
- 発売日: 2015/10/23
- メディア: Blu-ray
1998年に放送されたアニメで、インターネットの普及もこれからという時代に、ネットワーク世界が現実世界に浸食してくるという衝撃的な内容を描き出している。
放映から20年以上経った今見ても全然面白い。
未見の方にはぜひとも見てもらいたい。
visual experiments lain
visual experiments lain/ビジュアルエクスペリメンツ レイン
- 作者:
- 出版社/メーカー: 復刊ドットコム
- 発売日: 2013/06/18
- メディア: 大型本
『lain』のファンブックで、各話のあらすじ、解説や、インタビュー記事などが載っている。
ファンなら必携の1冊。
『lainノート』ではこの本の11話の解説などを引用してる。
けっこう重要な指摘がさらっと書かれてるw
scenario experiments lain the series
脚本担当の小中氏による脚注付きの脚本と、インタビュー記事が載ってる。
脚注にもいろいろ情報が載ってて、読み応えバツグン。
『lainノート』では本編からの引用するときに参考にした。
また、インタビュー記事(座談会)での小中氏の発言からも引用している。
哲学関連
てつがくフレンズ 女の子の姿になった哲学者たちの哲学学園
飲茶さん原作の哲学紹介4コママンガ。
主に古代ギリシャの哲学者が紹介されてる。
中盤からの、哲学的な議論を交えたストーリーはとても面白い。
以下の記事も参照:
ちなみに、飲茶さんの本はとても面白くて分かりやすいので、哲学入門にとてもオススメ。
ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。
原田まりるさんの小説で、主に実存主義の哲学者を紹介している。
永井均先生は『<子ども>のための哲学』で哲学を4つに分けている:
- 子どもの哲学:存在を問題にする(なぜ存在するのか?)
- 青年の哲学:人生を問題にする(どう生きるべきか?)
- 大人の哲学:社会を問題にする(社会はどうあるべきか?)
- 老人の哲学:死を問題にする(死とは何か?)
実存主義はこの青年の哲学にあたると言え、いろいろ参考になる人も多そう。
以下の記事も参照:
『lainノート』では実存主義ーー特にサルトルについて参考にした。
哲学散歩道 身体から眺めた世界
拙著w
「正しさ」「関係性」「身体性」の3つについて議論している。
『lainノート』の4章〜6章はこの本での議論がベースになっているので、議論の詳細を追いたい場合はぜひ参照してもらえれば。
数学、技術関連
最適化法
数理最適化の教科書。
普通の数学書に比べるとだいぶ丸いと思うんだけど、それでも数学書なので、読むのはそれなりに大変かも。
人工知能技術は数理最適化の応用の一つなので、結果だけでもさらっと掴んでおくといいと思う。
『lainノート』では、数理最適化とは何かの説明で参考にした。
深層学習
深層学習の入門書。
と言いつつ、自分はまだニューラルネットワークの部分しか読めてないんだけど(^^;
(なかなか読む時間がとれない)
『lainノート』ではニューラルネットワークの説明で参考にした。
パターン認識のためのサポートベクトルマシン入門
- 作者:阿部 重夫
- 出版社/メーカー: 森北出版
- 発売日: 2011/04/09
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
深層学習の前に流行っていたサポートベクトルマシンの入門書。
理論的な部分がしっかり書かれてる。
KKT条件などが出てくるので、それについては前述の『最適化法』を参考にするといい。
『lainノート』ではサポートベクトルマシンの説明で参考にした。
強化学習
- 作者:Richard S.Sutton,Andrew G.Barto,三上 貞芳,皆川 雅章
- 出版社/メーカー: 森北出版
- 発売日: 2000/12/01
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
強化学習の教科書。
言わずと知れたSutton本。
自分も勉強した内容を以下の記事にまとめている:
人工知能関連
人工知能のための哲学塾
- 作者:三宅 陽一郎
- 出版社/メーカー: ビー・エヌ・エヌ新社
- 発売日: 2016/08/11
- メディア: 単行本
- 作者:三宅陽一郎
- 出版社/メーカー: ビー・エヌ・エヌ新社
- 発売日: 2018/04/20
- メディア: 単行本
三宅陽一郎先生による、人工知能を作るにあたって考える必要が出てくる哲学を紹介した本。
以下の記事も参照:
『lainノート』ではフレーム問題の説明と、人工知能の欲望に関する話で参考にした。
また、『lainノート』でイデア論の話を出したのは、とある飲み会での三宅先生の発言(人工知能は作るものじゃなくて、存在があるところに生まれてるものなんじゃないか、といった内容)がきっかけになっている。
現れる存在 脳と身体と世界の再統合
身体性認知科学の本で、知能とは脳の中に閉じているものではなくて、身体、さらには環境にもにじみ出ているんじゃないか、と主張している。
哲学的でもあるのだけど、それ以上に科学的で、紹介されてる事例も(けっこう古くはなってるものの)面白いので、エンジニアにはぜひ読んでもらいたい。
以下の記事も参照:
『lainノート』では人工知能の在り方について問題提起するときに参考にした。
ちょびっツ
CLAMPによるマンガ。
パソコンが人型をしている世界を描き出していて、その中で様々な哲学的な話を展開している。
人工知能を考える上で、この『ちょびっツ』は本当に示唆的。
人工知能の哲学に興味がある人は、必見と言っても過言ではないと思ってる。
以下の記事も参照:
『lainノート』では、人工知能が人間にとって都合の良くない存在であったとしても、それを愛せるのかという問題提起で引用している。
(それが『ちょびっツ』の最大のテーマでもある)
その他
キーリ 死者たちは荒野に眠る
壁井ユカコ先生のライトノベル。
人工知能とはまったく関係ないんだけど、このシリーズ、小説として普通に面白いんでオススメ。
壁井ユカコ先生の文章、大好き。
『lainノート』では、遍在するだけの神様って本当に嬉しいの?という問題提起で引用した。
劇場版カードキャプターさくら 封印されたカード
劇場版 カードキャプターさくら 封印されたカード [DVD]
- 出版社/メーカー: バンダイビジュアル
- 発売日: 2001/01/25
- メディア: DVD
CLAMPの『カードキャプターさくら』の劇場版。
脚本をCLAMPの大川さんが書いてるので、まさにCLAMPという内容になっている。
これも人工知能には関係ない作品なんだけど、とても面白いのでオススメしたい。
考察記事は以下を参照:
『lainノート』では友達に関する議論でさくらのセリフを引用した。
さくらちゃんの精神年齢の高さw(CLAMP作品ではよくあることw)
今日はここまで!
serial experiments lain Blu-ray BOX
- 出版社/メーカー: NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
- 発売日: 2015/10/23
- メディア: Blu-ray
visual experiments lain/ビジュアルエクスペリメンツ レイン
- 作者:
- 出版社/メーカー: 復刊ドットコム
- 発売日: 2013/06/18
- メディア: 大型本
- 作者:阿部 重夫
- 出版社/メーカー: 森北出版
- 発売日: 2011/04/09
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 作者:Richard S.Sutton,Andrew G.Barto,三上 貞芳,皆川 雅章
- 出版社/メーカー: 森北出版
- 発売日: 2000/12/01
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 作者:三宅 陽一郎
- 出版社/メーカー: ビー・エヌ・エヌ新社
- 発売日: 2016/08/11
- メディア: 単行本
- 作者:三宅陽一郎
- 出版社/メーカー: ビー・エヌ・エヌ新社
- 発売日: 2018/04/20
- メディア: 単行本
劇場版 カードキャプターさくら 封印されたカード [DVD]
- 出版社/メーカー: バンダイビジュアル
- 発売日: 2001/01/25
- メディア: DVD