いものやま。

雑多な知識の寄せ集め

『組み立て×分解! ゲームデザイン ゲームが変わる「ルール」のパワー』を読んでみた。

気になったので、さっそく読んでみた。

組み立て×分解! ゲームデザイン ――ゲームが変わる「ルール」のパワー

組み立て×分解! ゲームデザイン ――ゲームが変わる「ルール」のパワー

ちなみに、hontoだと、今なら技術評論社電子書籍が1,000円引きになるクーポンがあるので、お得。
(クーポンは2016年3月1日まで)

概要

デジタルゲームのゲームメカニクスのデベロップをテーマにした本。
著者が実際に作ったゲームを題材として、メカニクスをどのように改善していくことでゲームを面白いものにしていくことが出来るのかが書かれている。

メカニクスのデベロップの過程が書かれているので、それぞれの状態においてどのような問題があって、その問題をどのように解決していったのかが具体的に書かれているのが面白い。

目次は次のような感じ:

  1. ゲームデザインを行う前に
  2. アルゴリズムからゲームを作る
  3. ルールを組み替えてゲームを作る
  4. 対人ゲームから一人用ゲームを作る
  5. 自由と制約を考える

この本におけるスコープを定義している第1章を除いて、2章以降ではそれぞれの章ごとに1つのゲームのメカニクスをデベロップしていく過程が書かれている。
ちなみに、それぞれ扱ってるゲームは、以下の通り:

  • 第2章:『mosser』(『カタチのゲーム まるぼうしかく』の「しかく」ゲーム、『燃やすパズル フレイムテイル』として製品化されてる)
  • 第3章:『fencer』(iOSアプリで『fencell』として配信)
  • 第4章:『toccos』
  • 第5章:『パネキット

第5章はデベロップの過程を示したものではないけど、この本で暗黙的なキーになってる「自由と制約」について、ある程度自覚的に扱い、その観点から『パネキット』の要素について解説がされている。

感想とか

デベロップの過程が具体的に書かれているので、読んでいて面白い。
ただ、終始して具体的な話がされているので、その背景にあるであろう抽象的なレベルの話は弱め。
なので、改善に使えるアイディアの引き出しを増やすことは出来るかもしれないけど、実際にそれを使いこなせるようになるには、まだまだギャップがありそうに思う。

ちなみに、第2章〜第4章のタイトルを見ると、それぞれの章でタイトルに沿った解説がされているように感じるけど、あまりそんな感じにはなっていない。
これらはあくまでゲームメカニクスを作り始めるスタート地点の例になっている。
全体を通して行われているのは、つまらない理由の分析と、それを解決するための制約の導入の検討。
この「制約をどう与えるのか」「新しく追加した制約と既存の制約との調整をどう行うのか」というのが、(あまり明示的に扱われていないけど)この本のテーマになっていると感じた。


以下、自分なりのこの本のまとめ。
(自分の解釈も入ってるので、本に書かれてないことも書かれていることに注意・・・ちゃんと知りたい人は買って読んでね)

テーマ、レベルデザイン、ゲームメカニクス

デジタルゲームを考えたとき、「テーマ」「レベルデザイン」「ゲームメカニクス」の3つの要素がある。

テーマ

ゲームの題材。
例えば、スペースインベーダーなら「宇宙からの侵略者を撃退する」というテーマだし、シムシティなら「街を運営、発展させる」というテーマになる。
テーマが同じでも違うゲームメカニクスを使うことはあるし、逆に、ゲームメカニクスは同じでも違うテーマにすることもある。
(このあたりはボードゲーマーなら分かりやすいはず)

適切なテーマを選ぶと、プレイヤーはテーマからルールを類推することが出来るので、操作がしやすかったりする。

ただし、この本ではテーマからゲームを作っていくのではなく、ゲームメカニクスからゲームを作っていく方法を取っている。
というのは、テーマからゲームを作っていくと、ゲームメカニクスの問題を解決するためにルールを変えようとしたときに、テーマが発想の邪魔になってしまうことがあるから。
それに、テーマをどれくらい再現するのかといった問題もある。
シミュレーションゲームなら当然ちゃんと再現していないと問題だけど、そうでないゲームならある程度再現されていれば十分ということもある)

レベルデザイン

ゲームには、区切りがなく、ずっと同じ画面の(けど、基本的には徐々に難しくなっていく)循環型のゲームと、区切りがある、ステージ型のゲームがある。(※ステージ型という用語は本にはない)
前者の一例はテトリスで、ゲームオーバーはあってもクリアは存在しない。
後者の一例はパックマンで、ステージをクリアすると次のステージに進む。

ステージ型のゲームの場合、ゲームの難しさはルールだけでなく、ステージの難易度にも依存してくる。
また、循環型のゲームであっても、パラメータのさじ加減(例えばテトリスならブロックの落ちる速度など)によって難しさは変わってくる。

ステージ型のゲームでどのようなステージを用意するのかや、循環型のゲームでパラメータをどうするかというのは、レベルデザインと呼ばれる。
プレイヤーが遊んで楽しいゲームを作るには、レベルデザインの調整が必須。
難しすぎてもダメだし、簡単すぎてもダメ。

ただし、この本ではレベルデザインを扱っていない。
というのも、ゲームが面白くなかったとき、レベルデザインが悪いのか、ゲームメカニクスに問題があるのかの判断は、難しいものだから。
なので、レベルデザインはある程度適当に行って、それでも面白いゲームが含まれているようなら(常に面白い必要はない)、あとはレベルデザインを行えばいいだけとなるし、それで面白いゲームが含まれていないようなら、根本のゲームメカニクスに問題があるという判断を行うようにしている。
(そして、後者の場合についてをこの本ではスコープにしている)

ゲームメカニクス

ゲームをゲームにするためのルールの集まり。
一般には、ジャンルごとに大まかなゲームメカニクスはあって、それを参照した上で、ゲームによって細かい違いがあったりする。

この本で扱ってるのは、ここ。
このゲームメカニクスに手を入れることで、新しいゲームを作り出すことを目指している。

なお、ゲームメカニクスに手を入れると、馴染みのないゲームになって、遊びにくくなる可能性があるということを本では指摘している。
ボードゲーマーだと、むしろ目新しいシステムに興味を引くものだけど、このあたりは一般の人とは感覚がズレてるんだろうなぁと思ったり。
(実際、自分のSoloXmasとかも、自分ではシンプルなルールだと思ってたけど、レビューでは複雑なゲームと評価されてた)
このあたりのバランスは、ターゲットをより一般層にする場合は、考えていかないといけないのかもしれない。

ルールとアルゴリズム

ゲームメカニクスを作り出すのは、個々のルール。
ただし、デジタルゲームアナログゲームではここに微妙な差異がある。

アナログゲームの場合、ルールはプレイヤーにすべて提示されている。
じゃないと、遊ぶことが出来ないから。
システム内に処理がブラックボックスになっている部分は存在しない。

一方、デジタルゲームの場合、ルールはプレイヤーにすべて提示されているとは限らない。
というのは、コンピュータが内部で勝手に処理を進めるということが可能だから。

例えば、スペースインベーダーを考えてみても、インベーダーがどのように動くのかといったことは、プレイヤーはルールとして知っている必要はない。
インベーダーを動かす処理はコンピュータが勝手にやってくれるので、プレイヤーはインベーダーの動き方に関するルールを知っていなくてもプレイをすることが出来る。
(逆に言うと、スペースインベーダーアナログゲームとして遊ぼうとした場合、各ターンにインベーダーをどのように動かすのかをルールとして書く必要があることになる)

この本では、プレイヤーが知っていないとプレイできないものを「ルール」、逆に、プレイヤーが知っていなくてもいいもの(けど、ゲームを動かすためには必要なもの)を「アルゴリズム」と分けて扱っている。

第2章では、この「アルゴリズム」からスタートして、ゲームメカニクスを作っていけないか、ということを試みている。
例えば、「火はこうやって燃え広がっていく」とか「エサを食べるとヘビが成長する」とか、そういった「仕組み」から発想を広げていくことで、ゲームを作っていく。
これは、アナログゲームゲームデザインでいうと、身近にある「ゲーム性」をスタート地点として、ゲームを作っていくことに似ているかもしれない。

一方、第3章、第4章では、既存のゲームメカニクスからスタートして、新しいゲームメカニクスを作っていく。

  • 第3章では、最初にルールを出来るだけ削って、そこに新しいルール(制約)を追加していくことで、ゲームを成立させることを試みている。
  • 第4章では、アナログゲーム(対人ゲーム)の対人要素を「アルゴリズム」に落とし込み、それをコンピュータに受け持たせることで、ゲームを成立させることを試みている。(相手プレイヤーの行動を一種のステージ生成器とみなしてアルゴリズム化している、と考えることが出来る)

ちなみに、第4章に関しては、「対称」「非対称」という対比があって、それが面白い。

対称 非対称
対戦格闘ゲーム ベルトスクロールアクションゲーム
リアルタイムストラテジー タワーディフェンス
レースゲーム ドライブゲーム
テニスゲーム ブロック崩し

対人ゲームは基本的には対称なのに対し、一人用のゲームではそれを非対称にして、一方を敵役としてコンピュータが受け持つようにすることでゲームが成り立っているということがよく分かる。

もっとも、自分がやろうとしているのは、ゲーム自体を非対称に変えてしまうのではなく、相手プレイヤーの動きをコンピュータにAIで実現させるということだったりするけど。
そうした場合、デジタルで作られたゲームを逆にアナログに輸出するということが可能なので。
(実際、YWFもBirdHeadもSoloXmasも、アナログゲームとして遊ぶことも可能・・・というか、SoloXmasは実際にアナログで作ったし)

制約をどう与えるのか

この本の大部分を占めてるのが、この話。

サッカーを考えると分かりやすいと思うんだけど、例えば、サッカーで手を使うことが出来たら、それはもう別のゲームなわけで。
そして、手を使ってはいけないというルールがあるからこそ、脚だけでボールをうまく運ぶテクニックが必要になってきて、サッカーというゲームが面白いものになる。
このように、制約というのは、ゲームに困難性を与え、それを克服しようとするプレイヤーの行動を誘導し、そしてゲームを面白いものにする力を持っている。

といっても、制約を与えすぎるのもダメで、制約を与えすぎると今度は自由度がなくなってしまう。
それも面白くない。

なので、ゲームの現状を分析して、面白くなるように制約を上手く与えていくというのが重要になってくる。

制約の役割

制約と一言で言っても、複数の役割が存在する。

  • ゲームに困難性を生み出すための制約
  • 最適解を分からなくするための制約
  • プレイに指針を与えるための制約

まず、ゲームに困難性を生み出すための制約。
これは分かりやすいと思う。
簡単に目的が達成できてしまうようでは、ゲームにならない。
そこで、制約を入れて難しさを与えることで、ゲームになるようにする。

次は、最適解を分からなくするための制約。
最適解がすぐに分かってしまうようなゲームは、ゲームとは言い難い。
そこで、制約を入れることで、最適解を分かりにくくする。

最後は、プレイに指針を与えるための制約。
ゲームの自由度があまりに高すぎると、逆に何をやればいいのか分からないということが出てくる。
そういった場合、制約を入れて選択肢を狭めることで、何を行ったらいいのかが分かるようになる。

制約のカタログ

本で出てきた制約を拾い集めてみると、次のようなものがある:
(漏れがあるかも・・・)

時間や回数を制限する
定番の手法。
とりあえずこれだけでもゲームになったりする。
(面白いかどうかはまた別の話)

自機を登場させる
自機があることで、自機を守らないといけなくなる。
あるいは、行動に制限が出てくる。

形を制限する
使える形を制限することで、どの形を使えばいいのかといった思考性が生まれる。

循環型にする
循環型にした場合、「ある状態になるとダメ」という制約を同時に入れることになる。
(例えば、テトリスなら「画面が埋まってしまうとダメ」など)

画面をスクロールさせる
特に、強制スクロールは有効。
画面をスクロールさせることで、少し先の状態を予測可能にし、かつ、移動できる範囲に制限を与えることが出来る。

自機の動きに慣性をつける
慣性がついていると、コントロールが難しくなる。
ただし、単に操作性が悪くなるのではダメなので、他にも工夫が必要。

リスクとリターン

ゲームの目的を高得点を目指すとすることで、プレイヤーは「高得点を得るための行動をしなければならない」という制約を受けることになる。
このとき重要なのが、リスクとリターンの考え方で、よりリスクの高い行動をとれば、より高いリターンが見込まれるようになっているといい。
そうすることで、より高い得点を目指すためには、よりリスクの高い行動を取らなければならないというゲーム性が生まれてくることになる。

リスクとリターンの構造を作るときに、複数の目的を入れるという手法もある。
そうすることで、一方の目的を達成しつつ、もう一方の目的も達成しないといけないという困難が生まれてくる。
そして、この両方の目的が達成されたときには、より高いリターンが得られるようにする。
シューティングゲームでのパワーアップアイテムの獲得などを考えると分かりやすい)

今日はここまで!

組み立て×分解! ゲームデザイン ――ゲームが変わる「ルール」のパワー

組み立て×分解! ゲームデザイン ――ゲームが変わる「ルール」のパワー