昨日の続き。
別の観点
功利主義的に人口全体の満足度を最大にすることを考えた場合、従来の方法の方が妥当となるようだったので、別の観点で提案された方法を評価してみる。
具体的には、「格差」。
A案とB案に投票した人口それぞれの満足度の差を考えてみる。
ケース1、(Ca, Cb) = (80, 20)の場合
提案された方法の場合、満足度の差は
(0.8 * 0.8 - 0.2 * 0.2) * 100 = 60 [%]
従来の方法での満足度の差は
(0.8 * 1 - 0.2 * 0) * 100 = 80 [%]
したがって、提案された方法の方が、格差が小さいことが分かる。
ケース2、(Ca, Cb) = (60, 40)の場合、
同様に、提案された方法の場合、満足度の差は
(0.6 * 0.6 - 0.4 * 0.4) * 100 = 20 [%]
従来の方法だと、
(0.6 * 1 - 0.4 * 0) * 100 = 60 [%]
なので、やはり提案された方法の方が格差が小さくなっている。
ケース3、(Ca, Cb) = (50, 50)の場合、
提案された方法の満足度の差は
(0.5 * 0.5 - 0.5 * 0.5) * 100 = 0 [%]
従来の方法の満足度の差は
(0.5 * 1 - 0.5 * 0) * 100 = 50 [%]
このように「満足度の差」を考えた場合、提案された方法は従来の方法に比べて、「満足度の差」をかなり抑えていることが分かる。
比率ごとの「満足度の差」の差
さらに、(Ca, Cb)の比率ごとに、「提案された方法の満足度の差」と「従来の方法の満足度の差」を比べてみると、
- (Ca, Cb) = (80, 20)の場合
80 - 60 = 20 [%] - (Ca, Cb) = (60, 40)の場合
60 - 20 = 40 [%] - (Ca, Cb) = (50, 50)の場合
50 - 0 = 50 [%]
というふうに、CaとCbの比率が近くなればなるほど、方法間の「満足度の差」の差が大きくなっていることが分かる。
すなわち、提案された方法は、僅差になればなるほど、従来の方法で発生していた「満足度の差」を大きく改善しているということになる。
このことから、提案された方法は、「人口全体の満足度」を多少犠牲にしても、(特に、票数が僅差の場合に)「満足度の差」をあまり大きくしないようにしようとする方法になってることが分かる。
別の問題
けど、ここでまた別の問題が出てくる。
そもそも、「満足度の差」が開くことを問題視するというのなら、目的関数を「満足度の差」とするようにして、数理モデルを組立てる方が妥当ということになる。
その場合、次のような最適化問題として定式化されることになる:
この問題の最適解は、Ca + Cb = 100であることを利用すると、(Xa, Xb) = (Cb, Ca)であることが簡単に分かる。(※これで目的関数が0になるので)
これの意味するところは、例えば、(Ca, Cb) = (80, 20)なら、(Xa, Xb) = (20, 80)とすべき、ということだ。
多数派になればなるほど、その意見は尊重されなくなるという不思議なことが起こってくる。
制約の追加
それなら、そのような不思議なことが起こらないように、制約を追加したらどうだろう?
具体的には、Ca ≧ CbならXa ≧ Xb、Ca ≦ CbならXa ≦ Xbとなるように、制約を追加してみる。
すると、次のようになる:
この問題の最適解は、任意の(Ca, Cb)に対して、(Xa, Xb) = (50, 50)となることが簡単に分かる。(Ca > Cbのとき、目的関数は、Xaを出来るだけ小さく、Xbを出来るだけ大きくした方が小さくなるが、制約からXa ≧ Xbなので、(Xa, Xb) = (50, 50)のときが最適。Ca < Cbの場合も同様)
これの意味するところは、変な話、投票を行う意味なんてなく、どの案も均等に実施するのがいいよねということだ。
投票とはなんだったのか・・・
「利益」と「格差」のトレードオフ
実のところ、これは経済学でよくあるトレードオフの関係となってる。
すなわち、全体としての利益の最大化を追求するのか、それとも全体としての格差の最小化を追求するのか、という問題だ。
従来の方法の場合、全体としての利益を最大化する方法としては最適と言える。
けど、全体としての格差もそれにしたがって大きくなる。
一方、全体としての格差を小さくしようとすると、全体としての利益が小さくなるばかりか、場合によっては逆転現象や、そもそも投票に意味がなくなるということが起きてくる。
今回提案されていた方法は、バランスをとるという意味ではいい方法なのかもしれない。
今日はここまで!