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いものやま。

雑多な知識の寄せ集め

「夢」を語ることについて。

哲学

前回、PULLTOPのゲームに関連した昔の記事を紹介した。

その繋がりで、これまた昔に書いた記事をちょっと紹介。
書いたのは2005年の9月30日。
書いたときのタイトルは、『夢。』


『夏少女』というゲーム(※18禁)をやっていて、印象に残ったところがあったので。
(一度18禁ゲームを取り上げてしまったので、もう躊躇はしない・・・)

このゲームは、以前ゲームと文学と萌えと異化。 - いものやま。でとりあげた、『ゆのはな』を作ったPULLTOPの昔の作品。
一応全部やったけど、『ゆのはな』同様、ほわほわして暖かい作品だった。

本題に入る前に一応感想を書いておけば、普段恋愛において「邪魔」な存在として扱われやすい――それゆえ描写されることも少ない――母親と娘との繋がりがしっとりと描かれていて、しかもそれが本当に優しいもので、とてもよかったと思う。
主人公とヒロインとの関係よりも、むしろヒロインとその母親との優しい繋がりの方が、この作品の雰囲気を作り出しているのかもしれない。

では、本題へ。
このゲームをやっていて印象に残ったこと。
それはエントリのタイトルにあるとおり、「夢」――「将来の夢」に関する話。
(といっても、自分の将来の夢の話じゃなくて、もっと一般的な話)

「将来の夢」云々について論ずるときに、まず一つ挙げられるのが、以前自分が書いた記事(「自分探し」について考えてみた。 - いものやま。)にあるような、夢を見限っていくことの重要性の話。
この記事は読んでもらえば分かるとおり、物事に挑戦していき、自分にはあれが出来ない、これが出来ない、としていくことが、結局「自分には何が出来るのか」というアイデンティティの確立に繋がるんだ、というもの。
これはR25のNo.60の石田衣良のエッセイ、「夢を捨てる勇気」にも似たことが書かれてる。

今、誰もが夢について語りたがる。
夢を持っていないと、どこかおかしいという風潮さえある。
だが、本来夢などなくても、人間は生きていけるのだ。
夢を持たなければいけないと追いまくられたり、自分がほんとうは好きでもない夢を持ち続けたりする若者はいくらでもいる。

夢を持つことはいいことだ。
だが、これを読んでいるあなたは、自分の夢について、もう少しリアルに真剣に考え直してはどうだろうか。
夢は人を勇気づけるものであって、傷つけるものではない。
自分を不幸にする夢なら、捨て去ることで前進だってできるのだ。
石田衣良 エッセイ「夢を捨てる勇気」より。一部省略。)

この人の文章は、よく言えば日本的、悪く言えば主張が曖昧で、個人的にはあまり好きじゃない・・・
けど、上の文章に限って言えば、夢をもたなければいけない風潮がありそれはどうなのか、というところまで突っ込んで書いてあったので、よかったかな、と。

一方で、これが今回取り上げたいことなんだけど、「夢」を持つ、ということにあたっての「覚悟」というものについて論ずることも出来るかな、と。
どういうことかというと、これこれが夢である、と語ることは一見簡単そうなんだけど、でも、よくよく考えてみれば、それは違うということ。
というのも、その言葉は本当に「こうしたいんだ」という自分の中から出てきている「夢」なのか、それともとりあえず漠然と「こうだったらいいのになぁ」という「願望」の顕れに過ぎないのか、という問題があるから。
そして、それが本当に「夢」であるためには――「夢」であると胸を張っていえるようになるにはーーそれ相応の「覚悟」と「努力」が必要になってくる、ということ。

以下の引用は『夏少女』の京(みやこ)ルートで出てくるエピソード。
ここで上に書いたようなことが書かれていた。

まず、京ちゃんを簡単に紹介しておくと、主人公である真人(まさと)の親友の樹一郎の妹。
まじめで、小さな努力をコツコツと続けていく努力家。
旅館の娘で、兄の樹一郎がふらふらしているので、将来は旅館を継ぐことを期待されていて、本人もその期待にこたえたいとも思っている、というような女の子。
ちなみに歌が大好きで、独り練習してたりもする。

次のシーンは、主人公と天体観測をしていて、流れ星を探している、というシーン。

【真人】
 「そうだ。
  京ちゃんはどんなお願いするの?」
【京】
 「え?」
【真人】
 「流れ星を見つけたときにさ、なんてお願いするのかなって」
 軽い気持ちの質問だった。
 けど、京ちゃんは答えをためらうように口ごもり、ついには、下を向いて黙り込んでしまった。
 そのときだ。
 俺の視界の端を、再度一筋の光が横切った。
【真人】
 「あっ!」
【京】
 「えっ!?」
 一瞬遅れて、京ちゃんも俺の視線を追う。
 だが、漆黒の空に流された白い糸は、瞬きをするほどの時間も待たず、闇の中に溶けていった。
【真人】
 「………見えた……?」
【京】
 「……は、はい……。
  でも、願い事は……」
【真人】
 「言えなかった……?」
【京】
 「……はい」
 まさか、こんなに続けざまに流れるとは……。
 しかも俺が話しかけている最中に……。
【真人】
 「……でも、この調子ならまた流れるよ。
  大丈夫。もう一回探そう」
【京】
 「…………」
【真人】
 「京ちゃん?」
【京】
 「……いえ、いいです。今日は……。
  見つけてもたぶんまた、言えないと思いますから……」
 京ちゃんがうつむいた顔を上げた。
 そこにあったのは、どこか、ほんの少しだけ、無理をした笑顔。
【京】
 「さっきも、真人さんに聞かれて、すぐ言えませんでしたし……」
 さっき、答えられなかった京ちゃんのお願いって、なんだろう……。
 やはり言いにくいことなんだろうか。
 聞いてみたい気もするけど、聞かないでおいた方がいいんだろうな……。
 そう思い口をつぐむ。
 だが、その答えは意外にも早く、京ちゃんの口から告げられた。
【京】
 「私…、歌のお仕事に付きたいんです。
  それが、願い事です。」
 わずかな、ためらいを振り切るように、しかし、しっかりした口調で、京ちゃんは言った。
【真人】
 「歌……か」
 驚きはしなかった。
 最近の京ちゃんを見ていれば、なんとなく分かることだった。
【京】
 「……良かった、笑われなくて」
【真人】
 「笑わないよ。真剣に言ってる夢だって、分かるから」
 うつむいたまま、京ちゃんの首が小さく振られる。
【京】
 「いいえ、夢じゃないです。
  まだ夢にもなってない……」
【京】
 「まだまだ、小さくて……
  夢だっていえるだけの自信もない……」
【京】
 「だから……。
  胸をはって誰かに言うことも、できないんです」
【真人】
 「……じゃあ、どうして俺には教えてくれたの?
  誰にも言えない、そのお願いを……」
【京】
 「…………」
 答えを探しているのか、言うのをためらっているのか、しばしの間、京ちゃんは沈黙の中に身をおいた。
 やがて、その口が言葉を紡ぎ始める。
 同時に、その顔は俺へと向けられた。
【京】
 「……一歩だけ……前に出れた気がするんです。
  真人さんのおかげで……」
【京】
 「真人さんに頑張ってる、って言われたから、すごいって言われたから……」
【京】
 「ほんの少し……
  自分のこと、すごいって思えた……」
【京】
 「そうしたら、もっと、すごくなりたいなって思ってることに気付いた」
【京】
 「胸を張って、『これが自分の夢だ』って言えるようになりたいって……思った」
【真人】
 「…………」
【京】
 「だから、これからはもっと頑張りたい……。
  もっと、すごい自分になれるように頑張りたい」
(『夏少女』京ルートより。一部省略。)

ひっじょーに長く引用したけど、先ほど書いたようなことがありありと描かれているのが分かると思う。
「まだ夢にもなってない」という言葉が、非常に印象的。

このあと、主人公は1年の隔たりを経て京ちゃんに再会する。
1年ぶりの京ちゃんは努力をして、歌がかなり上手になっていた。
そんな1年後のシーン。

【京】
 「真人さん、覚えてますか?
  ……去年、星見台でした約束…」
 ……あの時、京ちゃんは言った。
 自分はまだ星に願いをかけるだけの、自信もない。
 だから、いつか胸をはって願いをかけられるように、自身を持てるように、練習したい、努力したい……。
 だから、それまで、自分の姿を見ていて欲しい……と。
 もう1年も前のことなのに、あの日と同じ満天の星の下、その記憶はまるで昨日のことのように甦ってきていた。
【真人】
 「ああ……、思い出した」
【京】
 「そうですか……」
 そこで言葉を区切り、空を仰ぐ。
 そして、またゆっくりと京ちゃんは口を開いた。
【京】
 「……わたし、まだ約束、守れてないんです」
【真人】
 「そんな……京ちゃんはうまくなったよ。
  ほんとに、驚くくらい」
【京】
 「いいえ……まだ、私はあの頃と変わってないんです」
【京】
 「練習していることを、隠してるわけじゃないんです。
  ……お母さんは、私が本気なんだって、うすうす感じていると思います……」
【京】
 「でも……、まだ、戦ってはいないんです」
【真人】
 「戦う?」
 少し突飛な言葉に、思わず聞き返した。
【京】
 「兄さんにも、お母さんにも、夢があります。
  そして、私の夢をかなえるってことは、それを……それを邪魔することなんです」
【真人】
 「……そんな、邪魔なんて言い方しなくても……」
【京】
 「でも、そうなんですよ。
  お母さんは、みやこ(※旅館の名前)を継いで欲しいって思ってる。
  兄さんは天文学者になりたい」
【京】
 「私の夢が叶えば、兄さんが継がなきゃいけない。
  二人とも継がないなら、お母さんの夢は叶わない。
  ……実際そうなんです」
 それが当たり前のことであるかのように、特に思いつめた様子もなく、京ちゃんは言った。
 その様子がなぜか痛々しく、俺は必死に反論の言葉を探す。
【真人】
 「そんな……。
  でも、だからって京ちゃんが我慢するなんておかしいよっ」
【京】
 「……はい。そうです」
【真人】
 「えっ……」
【京】
 「それで夢を諦めるつもりはありません。
  ……諦められません」
【京】
 「でも、それは戦うってことなんです。
  兄さんとお母さんの夢と……」
【真人】
 「…………」
【京】
 「その事を……、自分の夢と向き合って、はじめて自覚できました」
【京】
 「明日、オーディションの結果が出るんです」
【京】
 「そうしたら言います。
  たとえそれが良い結果でも、悪い結果でも」
【京】
 「自分はこうしたいんだって、
  これが自分の夢なんだって」
【京】
 「明日から、私……戦います」
 決意の表情で、京ちゃんは胸を張った。
(『夏少女』京ルートより。一部省略。)

またまた非常に長く引用したけど、自分の「夢」と真剣に向き合い、それに向かって努力していく、戦っていく「覚悟」というものが、ひしひしと伝わってくる。

物語はこの「夢」を軸に進んでいき、まぁいろいろとあるんだけど(これはさすがにネタバレなのでここでは書かない)、最後はきれいにまとめられていて、とても良かったと思う。
と、同時に、自分の「夢」に対する覚悟の甘さも痛感させられて、だいぶ身にも堪えたけど・・・


この歳になって振り返ると、結果的に自分は京ちゃんのように強く闘ってはいけなかったわけだけど(ちなみに数学者になりたかった)、それはそれとして、今こうしてこうなっているという事実が嫌ではないので、なんとも難しいところだなぁ、と。
嫌なこともいろいろあったけど、その分、知ることが出来たこともいろいろあったから。
捨てた分だけ拾えるものもあるというか。
まぁ、それがアイデンティティというものなわけだけど。

今日はここまで!

夏少女 初回版 CD-ROM版

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